CAT GETTING OUT OF A BAG

What the tester is thinking.

大人になってから知る、絵本のもうひとつの楽しみかた

 

Twitterでの会話がきっかけで、45年ぶりくらいに『ねえさんといもうと』を読み直しました。

ねえさんといもうと

ねえさんといもうと

 

やさしくて、ちょっぴりせつなくなる、なんともない日常の、ある日の姉妹のおはなし。願わくば、当時手にした福音館書店版(マーサ・アレキサンダーさん 絵、やがわすみこさん 訳)が欲しかったのだけど、現在は絶版となっていて新品は入手がむずかしいようです。あすなろ書房から2019年に刊行された酒井駒子さん版『ねえさんといもうと』は、もうため息がでてしまうくらい、とても良かった。繊細でやわらかで美しいタッチで描かれる姉妹が、絵本の中で動いているようでした。ふたりの表情の描写も細やかで、福音館書店版よりこころに伝わってくるものが多いと思います。

わたしは「ねえさん」

私には三つ年下の妹がいるのですが、おもしろいことに、当時と同じように「ねえさん」の立ち位置で読んでしまいます。いまとなっては「いもうと」の心情や行動も手にとるようにわかるのに、この絵本を読むときの私は、いつも「ねえさん」なのです。

本当は大好きなおはなしのくせに、読んでいる姿を誰にも(特に妹には)見られたくないという、不思議な絵本でした。だから、お部屋のすみっこか、二段ベッドの上段でこっそりと読んでいたのです。この、なんとも説明のつかないあの複雑な気持ちを、いまも再現できてしまうし、「あのときの複雑な気持ちはね……」と当時の私におしえてあげる、そんなことも可能なのです。45年前の自分と対話できるなんて、絵本はタイムマシンなんだわ!と思いました。

絵本のちから 

45年前、私は家族4人で川崎の団地で暮らしていました。8階のベランダから多摩川や、河川敷のグランドや、蒲田ー川崎間に架かる京浜東北線の鉄道橋を、いつも眺めていました。

目に浮かぶその風景は、フィルム写真のようにすこし色褪せています。懐古するときの脳が、無意識のうちに画像処理をほどこしてしまうのか。それとも、記憶が薄れるにしたがって、いくつかの色彩が抜け落ちてしまうのか。ううん、光化学スモッグのせいで大気が汚染され、目に映る景色が本当に色褪せていたのかもしれないな。(川崎市光化学スモッグについて調べたら、昭和45年度(1970年)の測定開始以来、大気中の濃度が一番高かったのが昭和49年度(1974年)という報告があり、まさにそのころの話です。)


絵本には深層意識に働きかける力がありそうです。ずっと忘れていたことを、思い出そうともしなかったことを、思い出させてくれる。忘れていたのは思い出ではなく、思い出をしまってある記憶領域の検索方法でした。絵本は索引に並んでいる用語のような役目を果たします。

団地の中に響く生活音。流れている空気。各階のおどり場の奥にある、吸い込まれそうな灰色のダストシュート。団地の広場でたまに見かけたポン菓子屋さんの軽トラック。ドカン!という破裂音と香ばしくて甘いにおい。

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河原町団地

お気に入りの絵本

昔のことを懐かしむ。そういうことができるお年頃(状況)になったのかもしれませんね。とにかく、あのころの私と、私のまわりにあったものに、もう一度会いたくなって、よく読んでいた絵本を12冊選びました。

  • 4月 ももいろのきりん
  • 5月 いやいやえん
  • 6月 ちいさいおうち
  • 7月 ロボット・カミイ
  • 8月 おしいれのぼうけん
  • 9月 ぐるんぱのようちえん
  • 10月 おおきなおおきな おいも
  • 11月 おおきなかぶ
  • 12月 てぶくろ
  • 1月 おだんごぱん
  • 2月 そらいろのたね
  • 3月 スイミー

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次点は『エルマーのぼうけん』

1970年代にもあった絵本のサブスク

私が通っていた幼稚園では月に一度、絵本がもらえる日がありました。先生から新しいすべすべの絵本を手渡され「どんなおはなしかなあ」と、わくわくしながら、帰りの園バスに乗りこみました。

ずいぶんあとになって、母から「あれは希望者が購入していたのよ」と教えてもらいました。福音館書店の『こどものとも』『かがくのとも』という月刊誌です。季節やこどもの成長にあわせたバラエティ豊かな絵本を選び、届けてくれる。1970年代もこんなサブスクがあったのです。絵本の多くは母が選んでくれたものと記憶していますが、今回選んだ12冊のうち9冊が福音館書店の絵本なのも、この月刊誌の影響を受けているのでしょう。

半世紀の時を超えて

買い直した絵本を母に見せたら、どんな顔をするのでしょうか。母もタイムマシンに乗り、二人の姉妹の子育てに奮闘していたころの自分や、ちいさくてかわいい(笑)私や妹に再会すると思います。そして、なにかを思い出し「そういえばね……」と話してくれそうな気がしてならないし、それを聞きたがっている私がいるのです。

 

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