CAT GETTING OUT OF A BAG

What the tester is thinking.

読書会のつくりかた #50QuickideasTests

5年前に入手して雰囲気で読んでいた Fifty Quick Ideas To Improve Your Tests (English Edition) の待望の日本語版『ソフトウェアテストをカイゼンする50のアイデア』が出版されました。

この日本語版を使って2022年11月からオンライン読書会を行っています。本記事ではこの読書会のつくりかた=設計について記載します。

読書会のつくりかた

はじめに考えること「読書会で何を得たいか」

オンライン読書会を主催するのは今回がはじめてですが、社内では何回か主催したことがあり、読書会の設計はそこでの経験をベースにしています。いつもはじめに考えるのは「読書会で何を得たいか」です。今回は自分が言い出しっぺなので考えるまでもないのですが、社内だと同僚や後輩から受ける相談から「◯◯の本を使って、読書会をしてみようか」となる場合もあります。読書会の初回には必ず「何を得たいか」をみんなで話します。*1

たとえば、話題の新刊をみんなで読もうぜ!となったときも「何を得たいか」を言葉にしておくと、読むことが目的にならず、得たいものを得ようとする読み方、時間の過ごし方になるのでおすすめです。何を得たいかを全員で一致させる必要はないですが、あの人の「こんなことを得たい」を知ってしまうと、それにつながるような何かを教えてあげたくなりますよね。*2

どういう読書会にしたいかを共有する

読書会の初回(0回目)に主催者3名で、どういう読書会にしたいかを話しました。こうしたい、こうなったらいいな!だけでなく、やりたくないことや、こうなったら困る、嫌だ、も話します。このイメージが共有できると、読書会の最中にそこから外れたり、迷走したりしても、誰かが気づいて本線に戻りやすくなります。事前に防ぐという強制力はあまり期待してません。諦めているわけではないけど、そうなってしまうときはそうなってしまうので、なるべくコストをかけないで戻れるようにしておくのがいいと思ってます。

読書会ではなく読書会を聴く会というスタイル

今回はおしゃべりがメインなので主催者3名で読書会をやることにしました。延長なしの1時間で音読もして全員にパスを回すには5名が限界かなと話していたのですが、毎回2名を募集するのはいろいろ面倒なのでやめました。読書会を公開するか非公開にするかは、わりと早いうちから公開する方向で話していました。ただ、自分たちは本の中身に集中したいから、それ以外のことに気を配る余裕はないよね。でも参加してくれた人たちを感じたいし、すこしは交流もしたいな、というわがままな願いを叶えてくれたのが「読書会を聴く会」というスタイルでした。インタラクティブさがほどよく低くて、今のところとてもよいです。

リスナーに読書会のイメージをどう伝えたか

オンライン読書会といえばそうなのですが「オンライン読書会」の言葉から想像するものは人によって異なります。この読書会のイメージに賛同してもらえる人に聴きにきてもらいたい。そのイメージをどう伝えればいいのだろうと悩みました。試しに一度だけ聴いてもらえればわかるのですが、そのためにわざわざ時間を調整してもらい、その結果「自分には合わないな」となったら申し訳ないし、がっかりされるのも嫌だったのです。

そこで、connpassで参加者(リスナー)を募集するときに「読書会をやろうと思ったきっかけ」を載せることにしました。ここに読書会のイメージも書きました。

読書会をやろうと思ったきっかけ(connpassに載せているものを転載)

日曜日の昼下がり、日々の開発風景を思い浮かべながら、手に入れたばかりの『ソフトウェアテストカイゼンする50のアイデア』を読んでいました。翌日の朝、#テストラジオ でパーソナリティのなそさん(@hiroyuki3gou)と、よしたけさん(@yoshitake_1201)がたまたま(偶然!)本書の感想を話していて「ああ、こういうのいいな!」と思いました。同じ本を読んだ開発者が何を思い、何を考えたのかを知ることは、自分が経験したことのない開発や、自分には無い考え方や捉え方や読み方に出会えるチャンスだからです。

数名で読書会が開催できればそれでよいので非公開でもよかったのですが、わたしと同じように「自分以外の開発者が何を思い、何を考えたのかを知りたい」と思う人にとっては多少なりとも価値があると思い、公開することにしました。チャット欄を用意しますので、自分はこう読んだよとか、思ったことや考えたこと、実際にやっていることなど、ぜひ書き込んでください。わたしが喜びます。聴き専(耳だけの参加)でもまったく問題ありません。

おしゃべりがメインなので、早く読み終えたい方や書いてあることを正しく理解したい方や正解を知りたい方には向きません。うすうす感づいてる方もいるかもしれませんが、何かを解決してすっきりするような感じにもならなそうです。楽しみ方や面白がり方は参加者のみなさんに委ねたいと思います。

2022年の新語として「タイパ(タイムパフォーマンスの略語)」が話題になりましたね。これを読めば、タイパ重視の人がうっかり参加してしまうことはないと思います。

読書会のすすめかた

本番の読書会のはじめからおわりまでイメージしながらひとつひとつ決めました。全体をとおして意識したのは「無理をしない」です。ずっと同じペースで物事を楽しむための原則です。

無理をしない

読書会の形式として『読書会という幸福 (岩波新書)』では、①おすすめの本を紹介し合う読書会、②朗読を採り入れた読書会、③輪読形式の読書会、④同じ本を読んできて話し合う読書会、の4つが紹介されています。①③④は予習が必要な読書会です。

今回の読書会は(無理をしないので)予習は無しにしました。宿題(読書会で話した内容をブログに書くなど)もありません。だから読書会の本番の1時間に集中できます。*3 

隔週開催にしたのもそうです。毎週やるとなると「ちょっとしんどいな…」と思うときもありそうですよね。1週間ってあっという間だから。読書対象をChapter 1(13アイデア)に絞ったのもそうです。本書はタイトルのとおり50のアイデア*4が掲載されてます。隔週開催となると1回1アイデアを読んでも2年はかかります。うわー、2年かー、2年やるのはちょっと自信ないな、となって、まずはChapter 1(13アイデア)だけやってみることにしました。まだはじまってないのに、どうやっておわりにするかをみんなで考えていました(笑)。

すすめかたの要点もconnpassに載せました。

すすめかた(connpassに載せているものを転載)
  • 書籍『ソフトウェアテストカイゼンする50のアイデア』は各自用意する
  • 本書、本文は画面共有しない(映さない)
  • 読書対象:まえがき、本書について、Chapter 1(13アイデア
  • 開催は木曜日 20:00-21:00(隔週)
  • 祝日はやらない
  • Discordのボイスチャンネル、テキストチャンネルを使用する
  • ボイスチャンネルはマイクミュートで参加してもらう
  • 数段落を音読→おしゃべり を繰り返す
  • 気になる書き込みは読んで紹介したい
  • まとめない(おしゃべりしたことがすべて)
  • 読み急がない(1回1アイデア読了を目指さない)
  • 読み進めることを目的にしない
  • 録画、録音はしない
  • ツイートやブログはOK
  • ハッシュタグ #50QuickideasTests

読書会中にBGMを流しているのも「無理をしない」に関係してます。本を読みながら自分の頭で考える読書会なので、全員で「うーん」と考えていると沈黙の時間を配信してしまいます。このときに無理をして話そうとしなくてもいいように、余計なプレッシャーを自分たちが感じなくて済むように、お手製のBGM*5を流しています。

また、connpassの参加募集のタイトルに連番(第n回)をいれるかいれないか、のような細かいことも話し合いました。連番をいれると何がお得か?タイトルで何を知りたいのか?連番でなくむしろ日付をいれたほうがいいのか?みたいな話を真面目にやりました。連番をいれると新しいリスナーの参入をさまたげるのではないか?とかね。最終的には連番にはあまり意味はなく、毎回カウントアップするのは手間だし、きっといつか間違えるよね、となって連番なしになりました。

アンチハラスメントポリシー

CC-BY-4.0で公開されている「TokyoGirls.rb アンチハラスメントポリシー」を元にこの読書会のアンチハラスメントポリシーを作成してconnpassに載せています。何もないところから作るのは大変なので助かりました。ありがとうございます。

設計を見直してより良くしていく

読書会を数回行った状態でこの記事を書いているのですが、イメージしていた読書会ができていると感じます。参加者のみなさんがそうなるように行動してくれているからだと思います。ありがとうございます。

読書会を開催するにあたり、ここに書いてないことも含めて設計してきましたが、あることをしたおかげで、設計の見直しが無理なくできるようになりました。それは connpassに「読書会をやろうと思ったきっかけ」と「すすめかた」を載せたことです。もともとは参加するかしないかを判断してもらうために載せたのですが、新しい参加募集をconnpassで作って内容を確認するときに、自然にそれが目に入るので隔週で読み直しています。設計を見直すためにわざわざアクセスしに行くのではなく、やることに組み込まれているから、とても楽だし気分がいいです。

さっそく見直しました

前回(2023年1月26日)の読書会で「ここだけの話」をしました。感想ブログをUpしてくださった方がいい感じに書いてくれて何も問題はないのですが「ここだけの話」の判断を聞き手に押し付けているなと感じました。"ここだけの話ですけどー" という前置きを聞き逃す可能性だってあります。読書会で話したことをツイートしたりブログに書くことはOKにしているので、今後は外に出せない話はしないようにします。書きたいなと思ったときに安心して書いてもらえるように。

このようにちょくちょく見直しながら、全員が気持ちのよい時間を過ごせるよう、より良くしていきたいと思います。

*1:訓練されているブログ読者は「うまくいったらどうなるの」を想起しましたね。正解です。

*2:今回わたしはこれを発動しています。

*3:今回の読書会は②に近いのかなと思いきや、本文の説明を読むとぜんぜん違います。世の中にはいろんな読書会があるのだなぁ。

*4:日本語版には訳者の山口鉄平さんによる特別寄稿の4アイデアも収録されています。

*5:あとで書く