ソフトウェアテスト #2 Advent Calendar 2018 - Qiita 24日目の記事です。
はじめに
医用機器(自社製品)のソフトウェア開発に従事して、あと数年で30年になります。うち15年くらいはプログラマー、現在はテスターとして日々奮闘中です。
私は開発現場で感じるちょっとした『違和感』を大切にしています。風邪のひきはじめに「なんとなくだるい」「鼻がツンとする」「喉が痛い」「寒気がする」というような違和感を感じた時、症状がひどくならないよう行動を変えるのではないでしょうか。それと同じようにソフトウェア開発の現場で感じる違和感も『注目すべきシグナル』と捉え、活動のきっかけにしています。
この記事では
- 何を見て違和感をつかまえているのか
- 違和感をつかまえやすくする工夫
- 違和感をつかまえたあとのこと
- 違和感をつかまえるために知っておくと良いこと
について記載します。どれも私の経験に基づいたものであり、思考法や認知心理学のような専門的な話は一切ありません。気楽に読んでいただけたらと思います。そうそう、風邪をひかないように前もって何かをすることも大切ですが「予防」のような話もありません。いくら気をつけていても風邪をひいてしまうことはあるよね、という前提です。
本題に入る前に
ところで「違和感を感じる」という表現は、日本語としてどうなのでしょうか。この記事を書くにあたり、はじめに違和感を感じたのはそこでした。せっかく『違和感』について書くのだから、違和感なく読める文章を書いてみたいと思ったのです。「頭痛が痛い」のような表現は明らかにおかしい感じがしますよね。そこで『重言(二重表現)』を調べてみたのですが、いろんなご意見があるようです。この記事の中での「違和感を感じる」は「重言(二重表現)ではない」ことにして書き進めたいと思います。自分なりの解釈は脚注 *1 にメモしました。
何を見て違和感をつかまえているのか
私が何を見て違和感をつかまえているのか(その兆しも含めて)一部を列挙します。どれもチームや製品に対して解決すべき課題や問題が見つかったものです。皆さんは普段どのような周波数で違和感をつかまえていますか?
朝会やディスカッションの場で
- 同僚の様子(顔色、声のトーン)がいつもと比べてどうなのか
- 話している内容がわかりづらい
- 聞いたことに対しての答えが直球で返ってこない
- 「仕様なんで」
- 「ずっと前からそういう動きになっています」
- 「今回のは大したことない変更なんで」
- 誰かの作業を待っている
- 自分に関係ありそうなことなのに黙って聞いている
- 「全部やりました」
- 正しそうなことを言っている
チケットを見る
- 書いてある内容がわかりづらい
- 文章が長すぎる
- 変更内容にプログラムの断片やコミットしたファイル名しか書いてない
- 一見すると文章だがよく見るとプログラムを日本語にしただけ
- 作業中(実装中)とだけ書いてある
- 仕切り直しが多い
- ずっと調査している
- なかなか手をつけない(後回しにされる)チケット
- 作るものに対してテストケースが少なすぎる/多すぎる
- うまくいきすぎている
コミットログを見る
- 変更した内容に対して変更したファイルが多すぎる
- 1日に同じファイルを何回もコミットしている
- 金曜日の朝の時点では苦戦していたはずなのに帰る間際にコミットしてる
製品を見る
- 昨日と比べてどうなのか
- 操作を間違えてしまう(スムーズに操作できない)
- 速すぎる
- もっさりしている
- 一瞬だけど応答が遅くなった
- 一瞬だけど表示がチカッとした
- うるさい
- 疲れる
- 揃いすぎている数値(719.000 のような数値)
- ディスクアクセスランプがやけにチカチカしている
自分自身を見る
- 時間を忘れてテストしている(ものすごく楽しい)
- 後回しにしたことがある
- 焦っている
- 退屈、つまらない
- 眠い
- いらっとした
- スッとした
違和感をつかまえやすくする工夫
この記事の執筆中に 秋山浩一さん @akiyama924 と何度かメッセージをやりとりしました。*2
その中で
- 違和感をつかまえやすくする工夫
- 違和感に対する感性を高める工夫
があるのではないか、という話しになりました。狙いを定めて何かを仕込んだり試したりするのはこの記事の範疇ではないのですが、狙ってないけどいつも無意識にやってることがきっかけで違和感をつかまえられているとしたら、それが『工夫』なのかもしれない。
いつもならこんなことはしないけど(だって無意識にやっていることだから)ほぼ日手帳に『狙ってないけどいつも無意識にやってること』を書き出してみました。書き始めてから数分で1枚に書ききれなくなってしまい(なにかおかしいかも…)と違和感を感じ、書くのをやめて秋山さんにメッセージを送りました。
『狙ってないけどいつも無意識にやってること』を(なぜ、それをやったのだろう?)と見つめ直してみると、その根底には(こんなことが起きたら嫌だな)という思いがあります。その思いは「過去に見た問題や不具合や自分の失敗」からくるものが多いのですが、中には説明がつかないものもあり、それはどこから舞い降りてくるのか自分でもわかっていません。
今回は『狙ってないけどいつも無意識にやってること』『無意識に思っていること』を抜粋して載せます。なぜそれをやるのか(何を心配しているのか)はあえて書かないでおきます。 *3 なぜなら、私はこのような断片から想像することが好きだからです。突拍子もないことを思いついてしまったり、意識化できていないこと(暗黙知)を引き出せるような面白さがあります。
なぜこんなことをするのだろう
過去にどのような問題があったのだろう
うちの製品に対してこれをやるとしたらどんな問題が見つかるかな
《テストしてみる 》
そういえば、全然関係ないけどずっと前にこんなことがあったよね
あれはどうかな
《テストしてみる 》
うわあああ、ちょっと何やってるんですか!!(プログラマーの悲鳴)
もう一つの『違和感に対する感性を高める工夫』については、いつか別の記事で書きたいと思っています。
狙ってないけどいつも無意識にやってること、思っていること
- 遅いPCで動かす(低スペックのもの)
- いつもと違う順番で起動する
- 起動直後は特別な状態である
- 何日間も電源を落とさないで動かす
- PCのシステム日時を23時55分に変更していつもと同じように動かす
- たくさんデータを登録した状態で動かす
- ひとつもデータがない状態で動かす
- 古い装置で生成したデータを使う
- 新しい装置で生成したデータを使う
- いつも使っているデータを使う
- いつも使っていないデータを使う
- 壊れたデータを使う
- 壊れたメディアを使う
- 設定ファイルがいつも読めるとは限らない
- タスクマネージャでリソース状況を見ながら動かす
- モニタの電源をOFF→ONする
- 他のダイアログ(メモ帳など)をかぶせて動かす
- 放置する
- ダイアログボックスで「どうする?」と聞かれてもすぐには選ばない
- テキストボックスで(やってることがありすぎるので省略)
- ラジオボタンはどうにかして2つ以上選ぼうとする
- ドロップダウンリストは下から選ぶ
- 常に何もないところをクリックしている
- ゆっくり操作する
- 素早く操作する
- 何度何度も繰り返す
- 両手を使う
- 手と足を同時に使う
- 「しばらくお待ちください」と言われても大人しくお待ちしない
- 制限を突破しようとする
- 接続しているものを外す
- OSで定義されているショートカットキーを押す
- 雷が鳴っている時は瞬電を期待している(瞬電が嫌そうな機能を触る)
- エラーが起きた時さらに別のエラーを起こそうとする
- ログファイルを見る
- ログファイルを全部削除してから動かす
この記事を同僚(テスター、プログラマー)が読んだら(ああ miwa がいつもやってるわ)と思うのではないでしょうか。テストはこれとは別にやるので、ここに挙げたのは『工夫』というよりは『習慣』に近いかもしれません。
違和感をつかまえたあとのこと
せっかく違和感をつかまえたのに(そういうものなのかもしれない)と勝手に納得して無かったことにしてしまったり、気にはなるけど明らかな問題(バグ)でもないしなぁと、何となくそのままにしてしまうことってありませんか?
違和感の中には「気にしすぎ」も当然ありますし、今の製品には「マッチしていない」場合もありますね。他の人も同じように違和感を感じているけど大人の事情で「今はそういう実装」になっているものもある。開発の終盤でこんなことを言ったら(いまそれ言う?)(いちいちうるさい人だな)と思われるかも…とかね。なんとなく表に出さないままにしてしまう状況は少なからずあると思います。
でも、あとから問題が発覚して(ああ、あの時の違和感がそうだったんだ、みんなに話しておけばよかった…)と思うんですよ。勿体無いよね。違和感に申し訳ない。だから言いづらいなと思う違和感ほど誰かに伝えるようにしています。杞憂であったとしてもそれはそれでいいのです。『これは仕事だから仕方ない』と思うと躊躇せずに言えるようになります。このフレーズはいろんな場面で使えるので便利です。違和感を自分ひとりのものにしておかないのがポイント。だいぶ気が楽になりますよ。
声に出す
違和感を感じた瞬間に首を傾げたり、小さな声で「ん?」「あれ?」「いまのなんか変だったよね?」と声に出します。これをやると何も言わないときと比べて『違和感を無かったもの』にしづらくなるのがよいです。私の異変に気がついた同僚が「なになに?」と興味を持ってくれることもあります。
観察する
違和感の正体を明らかにするために、どこに違和感を感じたのか、なぜおかしいと思ったのかを考えたり調べます。観察した結果をほぼ日手帳にメモするときもあります。小さな違和感ほど時間の経過に伴ってその感触が薄れてしまうので、違和感を感じた瞬間に(いまのあれはなんだ?)を考えるようにしています。
そういえば、この記事を書きはじめたときに「違和感を感じる」に違和感を感じたのですが、なぜそう感じたのかを考えたり調べました。これと同じですね。
同僚に話す
観察した内容をチケットに書いたり、朝会や朝会の二次会で話題にすることもあるのですが、それよりも先に同僚に話すことが多いです。同僚はどう思うのか、同じように違和感を感じるのかどうなのか。違和感の正体がわからなくてもよいので話します。
もしあなたのチームや組織だと(個人で感じる違和感レベルのことは)そこまで真面目に受け取ってもらえる風土がないと思うのでしたら、まずは違和感を交換しあえる同僚を一人作ってみてはどうでしょうか。二人で感じる違和感なら話しやすいよね。*4
違和感をつかまえるために知っておくと良いこと
いつもの状態を知る
『何を見て違和感をつかまえているか』にも書きましたが「いつもと比べてどうなのか」「昨日と比べてどうなのか」から違和感を感じているということは「いつもの状態を知っている」「昨日の状態を知っている」ということになります。いつもとの差分=違和感となるのでしょうね。風邪のひきはじめも同じで「いつもの自分の状態」を知っているから感じることができます。製品やチームもこれと同じですね。当たり前だけど重要なことだと思います。
練習ではなく実戦で
私は中学高校と6年間卓球部に所属していたのですが(女子シングルスで県チャンピオンになるくらいの腕前だったのでまあまあ上手なほうだと思います)
- 練習すれば獲得できる技術
- 実戦(試合)を重ねることでしか獲得できない技術
があります。後者は相手の動きと打ち返されたボールを見た瞬間に様々なことを判断して反撃するようなテクニックが必要になってくるのですが、違和感をつかまえることもこれに似ています。ソフトウェア開発の現場でより多くの違和感をつかまえられるようになりたいと思うのなら、練習ではなく実戦(本物)でやることを強くおすすめします。瞬発力を鍛えよう!
疲れているときは違和感をつかまえられない
これは言葉のとおりです。違和感をつかまえられないというより、いつものパフォーマンスで仕事ができないのは困るので1時間に1回は休憩を取るように心がけています。たまに熱中し過ぎる時もありますが Apple Watch が異変を感知して「スタンド」を強要してくるので安心です。8時間も仕事したら疲れるので残業もほとんどしません。
おわりに
ソフトウェア開発の現場で感じる違和感をテーマに
- 何を見て違和感をつかまえているのか
- 違和感をつかまえやすくする工夫
- 違和感をつかまえたあとのこと
- 違和感をつかまえるために知っておくと良いこと
について記載しました。
いろんな周波数を使ってつかまえたちょっとした『違和感』を大切にしながら、今後もより良い製品を丁寧に作っていきたいと思います。
あわせて読みたい
*1:『重言(二重表現)』の例としてよく挙げられる「馬から落馬する」などが「漢字」の重複を含むために「文字」の重複を二重表現だと誤解されることが多いが、二重表現とは「まだ未解決」「すべて一任」「あらかじめ予約」のように「意味」が重複する表現のこと。例えば「体操着」は「衣類の名称」であって着るという動作自体の「意味」は含まれない。そのため「体操着を着る」と言っても二重表現にはならない。「違和感」もこれと同様で「違和感」は「感じの名称」であり、感じるという動作の「意味」は含まれない。よって「違和感を感じる」は二重表現にはならない。「歌を歌う」「舞を舞う」なども同じ。どうしても気になる場合は「違和感がある」「違和感を覚える」「違和感を抱く」「違和感に気づく」のように違う言葉で置き換える方法もある。この記事の内容だと「違和感に気づく」でも良さそうではあるが、私の感覚だと「気づく」よりも早く訪れるのが「感じる」であり、別物である。今回は「感じる」ことに拘りたいので「違和感を感じる」を使用することにしました。
*2:今回のお題は Twitter経由で秋山さんからいただきました。どのようなことが知りたいのか興味があったのです。
*3:次回のとちぎテストの会議 #toteka で話してもいいけど、わかりづらいことを延々と聞かされる辛いセッションになります(私だけがものすごく楽しいやつです)
*4:チームや組織は概念で実体は自分です。風土は自分たちで作ろう!