CAT GETTING OUT OF A BAG

What the tester is thinking.

N's YARD に行ってきた

那須の森の中にある奈良美智さんの私設アートスペース N's YARD に行ってきた。*1

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Thinking Time 2020 Yoshitomo Nara

展示室は room 0 から room 5 の6つ。room 0 には奈良さんの好きなレコードジャケットやミュージシャンの写真やオブジェが展示してあった。こういう音楽やモノたちに囲まれながら奈良さんは生活(創作)しているのね…。受付で展示マップを頂いたときに「room番号はゼロオリジンなのか。なんだかプログラマっぽいな」と思ったんだけど、room 1〜5 とは流れる空気がまったく違う(好きが溢れ出ている)から1ではなく0にしたのはそういうことなんだろう、と思うことにした。

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room 0

奈良さんの絵はなにかに不安や不満を抱いていて(でもそれらの想いを自分の言葉でうまいこと変換できない)どこか挑戦的でもある子供の表情が印象的で可愛い。君が何を想い何を考えているのか知りたいけど、何も聞かずにそっと見守ってあげたいとも思う。

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Tear 2019 Yoshitomo Nara

今回の展示作品の中で特に面白いなと思ったのは『旅する山子』。文字どおり『山子』が全国各地を旅する。room 2 には旅先でのスナップ写真がたくさん展示されていた。

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Traveling Yamako 2019 Yoshitomo Nara
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単純だけど「背景を差し替えることができる」のが面白いのと、そこに吹いている風や湿度や匂いや音が『山子』がいることで、さらに色濃く感じられてすごい。あとぜんぶ同じはずの『山子』の表情が行く先々で違って見えるのが不思議。なんでそう見えるのか考えたんだけど、その背景から物語を(自分勝手に)作り『山子』に投影しているのかもって思った。キャンバスが段ボール(!)なのでいつでもどこにでも行ける自由な『山子』だけど、この作品から軽快さはそれほど感じられない。これを見た人のいろんな想いが『山子』に宿っているような気さえしてくる。

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他にも段ボールを使った作品があった。こちらのギターを弾く女の子なんかは目を細めながら見て「奈良さん amazon で何を買ったんだろう…」と下世話なことまで考えてしまった。

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Guitar girl 2020 Yoshitomo Nara

併設のショップでポストカード*2を1枚購入し、こならカフェで豆乳のカフェオレを飲みながら一休みしたあと、 room 0 からもう一巡した。今年制作した作品も置いてあったので定期的に入れ替わるのかな。次回は room 0 に展示してあった奈良さんの好きなレコードからプレイリストを作って、ロックやパンクを聴きながら鑑賞するのも良いかもしれない。*3

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Miss Forest/Thinker 2016 Yoshitomo Nara

www.nsyard.com

*1:撮影可能な展示品が多くてびっくりしました(フラッシュ使用と動画撮影は不可)。あとから写真を見て楽しむことができるから嬉しい。最近は日本でもそういう流れなの?

*2:娘ちゃんによく似ている女の子のポストカードを買いました。奈良さんの描く子供はどこか娘ちゃんに似ているんだよな。本人もそれは自覚していて彼女は数年前に青森県立美術館(奈良さんの常設展示がある)を訪ねている。

*3:奈良さんセレクトおすすめの3枚!みたいなの、どこかで紹介されてないかな

JaSST Online Bergamot に参加しました #JaSSTOnline

JaSST Online Bergamot に参加したので感想などをつらつらと

www.jasst.jp

セッション1「探索的テスト」

ゲストにnemorine氏をお招きし、事前に実施の様子を撮影して頂いた探索的テストの動画を視聴します。
視聴をしながら質問者が随時気になったところで動画を一時停止し、ゲストに対して質問を行い探索的テスト実施時の内容や当時の思考を深堀りします。
質問者は実行委員及び、参加申し込み時に質問者オプションを購入いただいた参加者になります。

これオンラインでどうやるんだろう?と想像できなかったのですが、面白そうなので「質問者オプション」を購入しました。セッションの雰囲気は『相席食堂』、質問者は千鳥のイメージです!とお聞きしたので、民間公式テレビポータル『ティーバー』をインストールしてさっそく視聴。なるほど。芸能人が全国各地でロケを行い、そのVTRを千鳥が鑑賞し、気になる点があれば手元の「ちょっと待てぃ!」ボタンを押してVTRを止め、ツッコミを入れながら見守る番組なんですね。*1

様式はなんとなくわかったものの「あの物理ボタンはどうするんだろう?」と疑問は残りました。当日は早押しボタンオンラインを使いました。世の中にはいろんなツールがあるんだなぁ。素晴らしい。

@nemorin さんが探索的テストしたテスト対象については、開催日の二日前に資料が公開されました。TwitterぽいWebアプリケーションです。株式会社LIFULLさん がテスト研修の際に利用しているサンプルアプリケーション(わざとバグが埋め込まれている)だとか。これまた素晴らしい。自分たちが開発してる製品(本物)でテストするのが一番いいと思うんだけど、本物だとちょうどいい感じのバグって出ないもんね。教えたいことを逆引きしてバグとして事前に仕込んでおいてそれをネタに幅広く解説したり、なんならソースコードを修正してうまく動くところまで確認できる。とても良い取り組みだと思いました。

参加するにあたってのモチベーション

  • テスターのあたまの中にあることを質問をとおしてあぶりだしてみたい(書籍や教科書には載っていないような何か)
  • 自分の開発(テスト)脳への刺激、エッセンス

@nemorin さんを同僚だと思って一緒に開発(テスト)する気持ちで参加しようと思いました。自分だけが気持ち良くなったらたぶん失敗で、これは普段の開発でも同じです。

今回のシンポジウムは開発(特にテスト)が好きな人や得意な人が参加するはずなので、探索的テストの様子を見ながら様々な視点や観点でバグを探すんだろうなと想像しました。実際そうでしたね。そこは参加者のみなさんにお任せすることにしました。すごく楽しそうだったけど我慢した!(はじめにそう決めておかないと絶対バグを見つけようとして本来やりたいことができないのがわかっていたから)

早押しボタンが反応しない

当日のお昼過ぎに早押しボタンのURLが公開され動作確認も済ませていたのですが、セッション中に早押しボタンを押しても「ピンポン♪」と鳴りません。連打とか長押しとかいろいろやってみたのですがいっこうに反応しない。そんなことはお構いなしに探索的テストの動画は進んでゆく…。

どうしたらいいのかわからなくて流れの遅かったzoomのチャットに助けを求めました。SafariじゃなくてChromeがいいかもとかiPhoneでやってみたらどうかとか「みわさんは口ピンポンでいいです」などなどアドバイスをいただきました。ライブ中に本当にすみません。結局iPhoneでやりましたがまた動かなくなってしまい口ピンポンも投入しました。他の質問者の方は問題なく動いていたようなのでわたしのブラウザ(Safari)の設定が気に入らなかったのかも。

自分たちの開発(テスト)とのちがい

開発の仕方が違えばテストのやり方も変わるので単純に比較はできないのですが、普段自分たちが当たり前にやっていることを差分として感じることができたのでメモしておきます。良い悪いの話ではありません。

一度にテストする範囲が広すぎる

今回1時間でTwitterぽいアプリケーション全体を触りましたが、自分たちの開発ではこういうのはないです。もし1時間しかないのだったらテスト範囲をもっと絞ります。製品を触りながらテストしていき、小さな綻び(違和感)を見つけたら、さらに深さ方向に探索していきます。バグを仕留めたら(こんなバグが見つかるならあっちも心配だ)といったん地上に出て水平方向や斜め方向に移動し関連性がありそうだと思う場所をさらに探索、といった感じです。いま目の前で起きていることを観察し、自分の脳内に蓄積されている情報を使い、都度判断しながら探索していく。こういった一連の流れは「探索的テスト」の醍醐味の一つなのではないかと思っています。*2

動画を見た参加者が「ああ、探索的テストって1時間であんな風にアプリケーション全体を草原を走るようにさらっとテストすればいいんだな」と誤解されないかヒヤヒヤしました。さらっと見えるかもしれないけど @nemorin さんがやってたのはそんなに簡単なことじゃないんだからな!

わりと仕様書を読み込んでテストしている

わたしたちのチームは朝会でチケットを音読します。チケットは仕様書(よりももっと詳細)でプログラマーやテスターと議論した内容とともに毎朝強制的に頭に入ってきます。

実際にテストをする前にもチケットを読み返して一度おさらいしてからはじめることが多いです。どのように動くのを期待している/期待していないがだいたい頭の中に入っていないとテストできないんですよ。うまく言えないけど自分が期待しているパフォーマンスでテストすることができません。たぶんテストしながら目の前で起きる一瞬一瞬の動きやふるまいを脳内にある期待値とコンペアしてるのだと思います。もちろん仕様書自体が間違っていることもありますし、これまでは正しい仕様だったけど今も正しいかは分からないし、自分の脳だってバグっているかもしれないので、疑うことは忘れてはいけませんが。

そういうわけで前述した内容とも関連しますが、アプリケーション全体の詳細な仕様を頭の中に全部入れるのは無理なので、テスト範囲をもっと絞るということになります。わからない部分はその都度仕様書を読めばいいのでは?と思うかもしれませんが、それだとやりたいテストとスピードがぜんぜん合いません。*3

「探索的テストする」って言ってない

今回のテーマは「探索的テスト」ですが、普段「探索的テストする」って言ってないなと思いました。それだけです。

OST: 探索的テストをやるタイミングについて

Open Space Technology で shiromoto さんのテーマ「探索的テストをやるタイミングはいつにしてますか?」に参加しました。この問いについてのわたしの答えは「いつもです」としか言いようがない。テスターもたぶんプログラマーも毎日やっているので感覚がおかしくなっているのかもしれないけど、探索的テストってそんなに特別なものではないと思っています。わたしたちのチームがレアケースすぎるのかな。もしかしたらテーマの捉え方が違うのかもしれないし(前半は離席していた)、探索的テストという用語の解釈がずれてる可能性もあるな。わたしがいつも毎日やっているのはTestingだしな。そんなことを考えていました。

OST: 探索的テストをどうやって勉強、指導するかについて

Open Space Technology で とろ さんのテーマ「探索的テスト、どうやって勉強しますか?どうやって指導しますか?」に参加しました。テスト対象(製品やサービス)ではなくテストそのもの(テクニック)を対象に話してみたいとのこと。わたしはこんなことから日々学んだり、テストの幅を広げています。

  • 同僚(テスターやプログラマー)との会話
  • テストしている同僚の横に座って見てる(気になったところは教えてもらう)
  • ペアテスト(プログラマーともやります)
  • テーマを決めてチケットシステムを全文検索し過去の開発や起きた問題を斜め読みしながら、これから起こりそうな嫌なことを妄想する(バグをとらえるための瞬発力を鍛える訓練だと思ってやってる)
  • 他チームの開発者との会話(開発の仕方や最近見つけた面白い不具合とその原因について教えっこする)
  • 同僚(凄腕テスターSさん)になりきってテストする
  • 若手開発者とテストに関する本を読む

miwa719.hatenablog.com

この読書会、週1回のペースでやっているのですが1年半も経つのにまだ読み終わってません。途中でHAYST本に寄り道したのもあるけど毎回脱線しながらじっくりやっています。本に書いてあることが呼び水となり、お互いの開発(若手開発者とは開発してる製品が違う)について話していることが多いです。*4

勤続年数的には指導する立場なのでしょうけど、まだまだ知らないこと、分からないことも多くいつも一緒に学んでいます。

この練習帳がなかったら、社内教育に対して暴言を吐いておしまいになっていたかもしれないので助かりました。

  • 『ソフトウェア技術者のためのバグ検出ドリル』を解く

miwa719.hatenablog.com

  • iOSアプリやAppleWatchアプリを作って遊ぶ(無限にテストできます)

このテーマだけで1本記事が書けそうだけど、これくらいでやめておこう。*5 

当日使用したマイク

これまではiPhoneについてきたおまけのイヤホンを使っていたのですが、オンラインでのコミュニケーションは音声品質がすごく大事!と実感することがありまして、今回のシンポジウムに合わせて購入しました。でも自分では自分の声を聴くことはできないのである。どうだったんだろうか。

もっといろいろあったような気がする。思い出したらまたあとで書きます(更新したらツイートします) 


 

*1:このとき視聴したのがショーガールのブリアナ・ギガンテさんが大阪府枚方市にあるテーマパーク(ひらかたパーク)で遊ぶ回でした。

*2:ケースバイケースですが、検出したバグの修正に影響しそうなところはもう触らないことが多いです(直した後にそこも含めてテストしようという思考に変わる)。どこら辺まで修正の影響が及ぶのか分からないときは「ここをテストしようと思っているけど、あのバグが直ってからのがよいか」をプログラマーに相談するときもあります。

*3:車の運転中にあることがしたくて取扱説明書を見てしまうと、それをしたかった時と場所と状況にはもういないイメージです。

*4:先週、最終章の第6章「多次元の品質」に入り、ようやく終わりが見えてきました。

*5:ここにあげたものの多くは手段であって、ここから具体的に何を学び、どうテストに活かすのかは書いてないのだった。

判断に迷うときは「NG」にする

普段、わたしが心がけていることの1つに『判断に迷うときは「NG」にする』があります。目の前のふるまいが正しいのか間違っているのか判断に迷うとき、いったん「NG」にしてチームのみんなに問うのです。*1

例えば「これまで何年間もそのテストはPassし続けてるけど、いま触ってみたらなんとなくおかしい感じがする(でもずっとPassしてるんだよな…)」とか「すこし気になるけど、こう動くのはおそらく正しいのだろうなぁ」とか「こんな操作、お客さまは絶対にしないのは自分でもわかってる。わかってるけどわかったうえでこんなにひどいことをしました、とプログラマーに告白するのはいささか気が引けるな(どうしよう)」のようなもの。頭の中に「おそらく」「きっと」「多分」「〜だろう」のような確実さの度合いをあらわす副詞が浮かんだら、正しいほうではなく間違っているほうに倒します。

また、判断に迷う以前の行動として「いま自分は間違っている理由ではなく正しい理由を探そうとしている」ことに気づいたら(ちょっと気をつけなさいよ)と自分に言い聞かせます。あとこれはわたしだけかもしれませんが、脳が疲れてくると「正しいことにしたい気持ち」が若干強くなるような気がするので、疲れを感じたら休むか、そのときはあえて判断しないようにしています。

今ではこうすることに慣れてしまったのですが、NGにしたものがNGでなかったとき(正しいふるまいだったとき*2)は、自分のせいでチームの人たちに迷惑をかけてしまった、みんなの貴重な時間を奪ってしまったと申し訳なく思う気持ちと、自分が無知であることをひけらかしてしまって恥ずかしい気持ちが入り混じりなんとも辛いんですよね。

でもこのときこそ自身の学習の絶好の機会でもあるし*3、あとから問題が発覚して「ああ、あのときのあれはやっぱり間違っていたんだ…」と思うよりずっといいです。

こうすることにしたきっかけはあれかな。数年前、隣のチームのテスターと一緒に(7、8名いた)より良いテストのやりかたについて座談会をしたときに、困っていることや悩みごとを話す中でみんなで決めたんです。判断に迷ったときは「NG」にしようって。

正しいかもしれないことをNGにするのは今でも躊躇するけど、こんな風に「きまり」になっているとぐじぐじしないで「きまりだから言うかー」と思えるのがよいです。気分的にとても楽。みんなで決めたいくつかの「きまり」は小さなカードに印刷して*4事務机の上に置きいつも視界に入るようにしています。

*1:同僚のテスターやプログラマーに話したり、Bugチケットをあげて全員に見てもらうこともあります。

*2:偽陽性とも言いますね

*3:同僚が提起したNGから学習することも多いです。そんなときは「わたしも知らなかったから勉強になったよー、ありがとう」と言います。自分も同僚にそう言われて救われたし、お礼を言ってもらえて嬉しかったから。

*4:パウチしてある。パウチ知らないか…

ふりだしに戻る

うちのチームのチケットには開発日記が書かれています。その日に起きたことやこれから試そうと思っていること、気になっている部分のコードの断片や「誰それがこう言ったから(仕方なく)こうした」など、内容はさまざまです。毎朝同じ時間に同じ場所でこれらをみんなで読み合わせ、質疑応答を繰り返していきます。わたしはそこで思いついたテストのアイデアを話しながら、ここに書いてない+αの情報を脳内に配線していきます。

プログラマーがコミットしたあと、わたしは新たな気持ちでこの開発日記を読み直し、そこでまたなんらかの着想を得ながらテストしています。さっきも書きましたが、開発日記には設計/実装中に起きたこと、やったことの全てが書いてあるわけではないので、朝会や普段の会話から知り得たことやそれまでの経験から行間を補完します。その結果、出力されたわたしの思考や行動やテストが明後日の方向に行ってしまうことがあるのです。

たとえば、人間がやる(手動)テストとしては相応しくない(うまく狙えたのかどうかはわからない)。そこを保証したいのならコードを見て理詰めでやるべきだ。あなたの心配しているそれはもっと上位の仕組みでカバーされている(しかも長い間問題なく動いていて「枯れて」いる)…とかね。「まあどうしてもやりたいならやってもいいけどバグは出ないと思うよ」と言われたりします。

疑ってもあまり意味がないことに時間とエネルギーはかけたくないので、どうにかしたいなと思うのですが、明後日の方向に行っているかどうかはその出力が表沙汰にならないとわからない。となれば出来るだけ早いうちに表面化すればよさそう。なんですが、明後日の方向に行ってしまったおかげで見つけることができた価値のある課題や問題もあるのですよね。これがわりと少なくなくて捨てがたい。よって「しばらくこのままでいいか!」となり、ふりだしに戻るのを何回も繰り返しています。*1

*1:うちのチームはソフトウェアのバグだけではなく人間の行動バグもかなり早いうちに検出していると思うのですが、自分の中で(ああこの30分はもったいなかったな、どうにかしたいな)という気持ちがこの記事の元になっています。

チームが「サイロ化」しないための仕掛け

テスターのくせに Janet Gregory さんと Lisa Crispin さんの書籍『Agile Testing』『More Agile Testing』を読まずに今日まできてしまったのですが、この二冊を凝縮(Condensed)した『Agile Testing Condensed』(日本語訳)くらいは目を通しておかないとね!ということで読みはじめました。

leanpub.com

この記事は本書に書かれていたある問題を取り出し、それに対してわたしたちのチームが普段やっていることをわたしの目線で紹介したものです。ツイートするには長いのでこちらに書きました。

チームが「サイロ化」する問題

複数のチームがすべて同じプロダクトで作業している大規模な組織でよく見られる問題の1つは、チームが「サイロ化」する傾向があることです。依存関係を解決するために他のチームと話すことを忘れています。(第3章:アジャイルにおけるテスト計画)

サイロ化とは:企業のある部門が、他の部門と情報共有や連携などをせずに独自(単独)に業務を遂行し、孤立してしまう状態のこと。

 

たしかにそうなりがちかもしれませんね。わたしたちが開発してるプロダクトもまあまあ大きいのですが、なるべくそうならないようにするためにいくつかの仕掛けがあります。仕掛けと言っても、普段なんとなくやり続けていることがサイロ化しないための行動やふるまいだったんだなと思うわけで、はじめに「仕掛け」があったわけではないのですけど。*1

以下に隣のチームとの仕掛けのいくつかを紹介します。隣のチームはプロダクトを構成するシステム(ソフトウェア)の構造的にもわりと近い存在です。それぞれのチームの規模は小学校の1、2クラスを想像してください。*2

毎朝10分、隣のチームと会話する

  • 毎朝10分(8:45〜8:55)同じ場所に集まり、話をしています。
  • 参加者:隣のチームリーダー(2名)、うちのチームリーダー、テスター(2名)、@m_seki(プロの無職)*3
  • 開発状況に合わせて期間限定で特定のプログラマーが参加することもあります。
  • 話す内容はいろいろ(一例)
    • 昨日見つけた問題についての補足(チームを超えてチケットをあげている)
    • チケットにあげてないが気になっていること、心配していることは何か
    • 昨日の話した問題や課題がどうなっているか(現在の状況を同期)
    • お互いのチームでホットな話題についての情報交換
    • 一緒にやってほしい、教えてほしい、助けてほしいことの軽い予約
    • いまはどこの何にどれくらいの割合で注力すべきか(複数バージョンを並行開発してるため日々の調整を大事にしている。スケジュールや各プロジェクトの状況や問題の種類や大きさやそれに対するインパクトは常に変わっていくので。)

10分しかないのでお互いのチームが関係しそうでより重要と思うことから話します。自ずとみんながそうなります。いつもだいたい時間切れで終わるのですが、たった10分でも得られる情報は多いです。多いというより中身が凝縮されている感じ。自分のチームしか見ていないと外側の小さな変化(のちに自分のチームやシステム全体に影響を及ぼす何か)に気づくのが遅れがちですが、そういうことにも気づきやすくなります。

ここで得たことを元に隣のチーム(システム、ソフトウェア)とのつなぎ目とその周辺に気を配りながら、同僚のテスターとその日のテストを柔軟に変えていきます。

隣のチームのチケットを覗く

お互いのチケットは別管理ですが誰でも自由に見ることや書くことができます。チケットはわたし(テスター)にとってはお宝みたいなもので、毎日読むのが日課になっています。

  • 毎朝10分の会話のあと、話題になったアイテムを索引にしてチケットを覗きにいきます。そこにはもうすこし詳しい内容(開発日記)が書かれています。読んで理解を深めたり、分からないことがあれば隣のチームの誰かに聞きに行きます。
  • 午前中のうちに現在のイテレーションのチケットを一通り目を通します。特に自分で見つけたバグについては注意深く読みます。バグの原因はなんだったのか、どのように直そうとしているのか、プログラマーはどのようなテストをするつもりなのか、スムーズに修正作業が進んでいるのかに興味があります。これらは修正後の確認で何を試したらよいかを考えたり、プログラマーに質問、相談するための材料になります。

チームの外側も気にしてテストする

自分のチームがいくらうまくできても製品としてダメなら全然ダメという意識が多分ものすごく強いです。境界値にバグが存在するのと同じようにチームとチームの境界にも問題が潜みがちで、より気づきにくい特徴があるように思います。そのことは経験的にわかっているので要件定義の段階からプロダクト全体として何がどう変わるのか、変わったら何が嬉しいのかをみんなが気にしていて、たびたび話題にもなります。

同様にテストも薄くなりがちなので自分のチームを超え隣のチームの範疇にガツガツ入りこんで積極的に触っています。このときに『毎朝10分、隣のチームと会話する』や『隣のチームのチケットを覗く』で得た知識やノウハウや人脈を使います。あまり変なふうに触らないで…と思っているプログラマーもいるようですが(実際にそう言われたことがあります)お客さまが変なふうに触るかもしれないので、気にしないようにしています。なお、チームの外側をテストするのはテスターだけではありません。プログラマーもテストしています。

問題を見つけたら隣のチームへ話しに行く

この見出しだけ読むとはじめに引用した部分「他のチームと話すことを忘れている」に対する仕掛けがこれか、、、となるのですが、何がなんでも伝えたい!と思うことがないから話すことを忘れてしまうのではないか(仮説)を提起しておきます。問題を見つけたらと書きましたが『チームの外側も気にしてテストする』ので問題が見つかるとも言えますね。結局のところすべての行動やふるまいは全部どこかでつながっていて、これらの仕掛けの何もかもが単に「サイロ化」を防ぐためだけでなく、製品開発におけるさまざまな課題や問題に対してじわじわと効いてくるのだと実感しています。

おまけ

わたしたちのチームのNGワードに「合意する」「共有する」があります。あとメールを出しておしまい(あとはずっと返事待ち)は喜ばれないふるまいです。*4

おわりに

チームが「サイロ化」する問題について、隣のチームとの具体的な仕掛けや行動やふるまいをわたしの目線で紹介しました。途中で、隣のチームのことを書いているのか、自分のチームのことを書いているのか分からなくなるときがあったので、混乱された方がいたかもしれません。それくらいチームとチームの境界が曖昧になっているのですが、今から5年前のことを思い起こすとチーム間の結びつきはずっと薄かったように思います。

書きそびれましたが『隣のチームとの夕会』もあります(週4回、30分/回)。とりあえずやればうまくいくというものでもないので、何か秘密があるのだろうなあ。同じチームの @m_seki@vestige_ に聞いたらまた違った視点での仕掛けが出てきそうです。もしかしたら『Agile Testing』や『More Agile Testing』にもサイロ化しないためのヒントやプラクティスが書いてあるのかもしれませんね。

nihonbuson.hatenadiary.jp

kawaguti.hateblo.jp

追記:チームとは何か

*1:そういう風に動くように仕掛けられていたのかもしれないとは思う。

*2:4、5人ではないし、2、300人でもない。

*3:個人名を書くわけにもいかないのでチームリーダーと書いておきますが、明示的なリーダーは多分いません。みんながそれぞれリーダー。テスターもリーダーだよ。

*4:@m_seki は一時期メールボックスを満杯にしてメールを受信できないようにしていた。

「よし!」と思ったあとのもうひと手間(テスト)が大事

今朝、Amazonほしい物リストに愛用している替え芯を追加しました。商品名のほかにも必要な個数や持っている個数などを入力することができます。

最大何個まで指定できるんだろう?とソフトウェア開発者(特にテスター)ならあるあるな思考で大きな数字を入れてみました。どうやら最大値は 99999 のようです。(そういう風に動いているだけで、欲しかったものがそうだったのかはわかりません)

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100000 を入力した時の ! 正しい数字を入力してください はすこし不親切だなと思いました。

 

「最大値のチェック」を確認したあと「最大値が保存できる」ことを試しました。保存先の入れ物のサイズが小さいと保存に失敗することがあります。保存後、ほしい物リストに戻り 99999 が表示されることを確認しました。念のためAmazonアプリを再起動し、ほしい物リストを開き 99999 が表示されることを確認しました。

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「必要」のとなりにある「持つ」は編集画面とあわせて「持っている」のほうがいいね。

 

次に気になるのは「持っている」の個数ですが、こちらも最大値は 99999 みたい。「必要」と「持っている」の両方に 99999 を設定して保存しました。このあとほしい物リストはどうなると思いますか?

ほしい物リストから「替え芯」が消えます。

必要な個数と持っている個数が同じになると、あなたの希望は叶えられた!となり自動的に消えるようです。なるほど。ただ、替え芯のような消耗品だと持っていても使えば減るので、このふるまいはちょっとどうなの?と気になりました。そして、自分がこのアプリの開発者なら「リストに登録された商品を削除する機会を増やしたい」と思うかもしれないな、とも。


一通り触って大丈夫かな(大丈夫かなって誰にも頼まれてないけど…)「よし!」

 

このあとわたしはもう一度、同じ替え芯をほしい物リストに追加します。ほしい物リストはどうなると思いますか?

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最大値の 99999 を突破してしまいました。

普段の開発でも「よし!」*1と思ったあとのもうひと手間で、問題や課題が見つかることがあるのよねと思いながら、この記事を書きました。*2

そうそう「よし!」はテストするときだけでなくバグを見つけたあとにも応用できます。例えば、それほど大きな問題にはならなそうなバグ(A)だけど、それを踏んでしまうと、そのあとの操作でお客さまにインパクトのある問題(B)が発生しやすくなることがあります。こんなときうちのチームのベテランテスターはすかさず(B)まで報告してきます。きっと(A)を見つけた時点で「よし!」と安心せずに、もうひと手間かけてテストしてくるのだろうな。

「よし!」はテストに限ったことではありません。わたしがテスターなのでどうしてもテスト寄りの話になってしまいますけど。

*1:最近は「よし!」と思うとき、黄色いヘルメットをかぶった『現場猫』のイラストが浮かんでしまう病気にかかっていて、その度に「ヨシ!」じゃないほうの「よし!」と脳内でいちいち訂正してる。それはそれとして、わたしは工場勤務なので『現場猫』のネタがすごくわかるときがあって「くくく」と笑っています。この記事のアイキャッチ画像も『現場猫』にしたかったのですが、著作権がよくわからなくて断念しました。

*2:明日もう一度触ってみようと思うこともあるし、もうひと手間かけられるくらいのちょっとした余裕がないとむずかしいのかもしれない。そのちょっとした余裕は(時間というよりは)自分が支配してそう。

デブサミに行ってきた(2)

目黒の雅叙園で開催されたDevelopers Summit 2020(デブサミ)に行ってきた。今回も大盛況で満員のセッションが多く、人気のセッションでは壁沿いに立ち見も出ていた。どの会場も入場待ちの長い列ができていて大変そうだったが、わたしはお金の力(個人スポンサー)で解決したので快適だった。二日間でいくつかのセッションを聴講した。特に良かったものを数回にわけて書き記しておく。前回の記事はこちら

『質とスピード』和田 卓人さん(タワーズ・クエスト株式会社)

今回のデブサミで楽しみにしていたセッションの一つだ。昨年の『技術選定の審美眼』もよかったなぁ。久しぶりにスライドを見てみようと調べたら一昨年のデブサミだった。いろいろ思い出したぞ。講演後 Ask the Speaker で「審美眼の美はどこにあったのか?」としょうもないことを聞いたらギクリとしていた。数時間後に別の講演会場で会ったとき「あのあとすぐにスライドを見直したら何ページのどこそこのXXXXXというフレーズにかろうじて美が入ってました。よかった…」と教えてくれた。つられて「よかったねぇ」と言ってしまったが、そうじゃないだろう。和田さん(以降 @t_wada)だってはじめから知っていたはずだよ?

本当にいつもすみません。

@t_wada の講演はいつでもどこでも大人気なので個人スポンサーでものんびりしてられない。ランチセッション聴講後、急ぎ足で会場に向かう。入り口でネームパス(バーコード)をピッとしてもらい前のほうへ歩いていく。壇上の横のすこし暗いスペースにおそらく緊張して吐きそうになっている @t_wada の姿が見えた。

speakerdeck.com

@t_wada の話は「今回も良かったね」だけでは終わらないところが良いところだと同行者の @m_seki と本人がいないところで褒め合う。聴講後はこんなことを考えていた。

テストしていて急かされたことがほとんどない

テスターのわたしがそう感じるということは、うちのチームのプログラマーもあらかたそうなのではないかと予想する。だってわたしがテストする時点でテストに耐えられるレベルのモノができている、ということだからね。急いで何かをしなきゃならない状態にならないようにする力学が働いているように思う。まあ、たまにそうならないときもあって、そんなときは誰かが暴れる。

おそらくこれと関連してチームでいつも意識してるのは「がんばらない」ことだ。自分たちの穏やかな"いつもの時間"を守るために日々「がんばらない」をがんばっている。何を言っているのかわからないかもしれないが「がんばればできそう」「もうすこしやれそう」「むしろやりたい!」ときも時間がきたら我慢して帰る。定時すぎにモニターを覗き込んでいると「もう17時過ぎましたよ、帰らないんですか?(帰ってくださいの意)」と声をかけられる。わたしは(テストに関しては)時間を忘れて熱中しがちなので目をつけられているのだ。

若者が朝会でうっかり「がんばります!」などと言うと「がんばらなくていいから普通にやって」と言われる。がんばらないとできないものは何かが間違っているとのこと。@m_seki が言ってた。

ベテランだって急かしちゃダメだ

講演の中で「うまい人はうまいしヘタな人はヘタ」のようなスライドがあった。

技術力のある人はある程度急いで作ったとしても一定以上の品質のコードを書くし、意図的に品質を落としたとしても速度はあまり上がらない。

逆に、技術力が高くない人が時間をかけて作ったとしてもその人の技術力以上の品質のコードは書けない。

これはTesting*1にも当てはまると思う。ベテランが10分もさわれば見つけられるバグを初心者が3日かけても見つけることはできないのと同じだ。その人の技術力以上のTestingはできない。これは良い悪いの話ではなくそういうものだという話。

ただ、ベテランでも急かしちゃダメだと思う。さっき"ベテランが10分もさわれば見つけられる"と書いたが、テストするのに10分間しか与えなかったらそのバグは見つけられない可能性が高くなる。でも1時間与えたらはじめの10分で見つけられるような気がする。これは「ヤーキーズ・ドットソンの法則」(多少のストレスがあると注意力が高まるためパフォーマンスも高まるが、ストレスが強すぎると低下してしまう)に当てはまる事例だと思っている。試したことはないんだけど。*2

うちのチームでスピードを求められるとき

普段、急かされることはないがスピードを強く求められるときがある。それは何かおかしな挙動(期待との差)を見つけたときだ。テスターならスクリーンショットやログをとったあとにこんなことがしたくなるのではないかな。少なくともわたしはそうだ。

  • いまやったことをもう一度やってみて、再現手順を確かなものにする
  • おかしくなるときとおかしくならないときの手順や条件の違いを見つける
  • 一番シンプルな再現手順を見つける
  • 類似する不具合を見つけにいこうとする
  • 不具合かどうかわからないときはそれが仕様(期待しているふるまい)かどうかを調べる

うちのチームではこれはやってはならない。なによりも先にプログラマーにいま何が起きたのかを話し、新鮮な状態を見せなければならない。見せたあとならやってもよいが

  • これはコードを追って原因を見つけます(だから再現させなくていいよ)
  • ここの条件はこのバグとは関係ないっすね、むしろこっちがあやしいな

と設計や実装のポンチ絵を描いてもらったり、再現手順を探るときのヒントを教えてもらうことがある。そのままプログラマーと一緒にテストして、ものすごい速さで再現手順にたどりつくのは何度も経験している。テスト環境が原因だったこともある。

プログラマーに新鮮な状態を見せるとその場ですぐに問題の原因が明らかになったり、問題の原因を特定するための最短方法がわかるのはメリットの一つだ。

「おかしさに気づいてからプログラマーに伝わるまでの時間」という品質指標があるのかないのかわからないけど、とにかくうちのチームではこのスピードが求められている。

あとは何かわからないことがあるときに「わからない」を表明するまでの時間かな。チームの誰かに聞けば大抵のことはわかるし、わからなくてもどうにかなる。だから悩んで時間を使ってしまうのは嫌がられる。時間は自分ひとりのものではなくチームの時間だ。聞けばわかるかどうかは聞いてみないとわからない。だから聞くしかないのだ。

これらは練習しないとできるようにならない。

 

こんなふうにに普段やっている"普通のこと"をあらためて認識できたのは @t_wada のおかげ。ありがとうございます。

これは聴講しながら書いた自分用のメモ(記念に貼っておく)

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珈琲専門 猫廼舎

この日は夕食をすませたあと新宿区荒木町にある 珈琲専門 猫廼舎 に行く。ドアのガラス窓から見える店内はほぼほぼ満席で店に入るのを一瞬躊躇ってしまった。すごいな。

店主の荻野さん @ogijun に簡単な挨拶をしながらカウンター席に座る。夜にお邪魔するのは初めてなので大人になったような気分だがカウント的にはじゅうぶん大人だ。メニューを見せてもらう。バランスの取れたブレンド「イエネコ」にしよう。豆とお湯の量を5種類の中から選ぶシステムになっている。わたしは普通のコーヒーが好きなので3番の「はじめての方へのおすすめ」にした。

それからしばらくネルドリップの一瞬一瞬をとらえるような繊細な所作を眺めていた。贅沢な時間だ。

コーヒーカップはすべて有田焼。数十種類の中から荻野さんが選んでくれる。

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猫廼舎には通販部がある。わたしはおまかせコーヒー豆の定期便を購入して職場で飲んでいる。淹れ方もだんだん上手くなって「今日のは最高にうまくはいったな」とか思っていたんだけど、あれはすべて勘違いだった。プロが丁寧に淹れたコーヒーは素晴らしく美味しかった。ごちそうさまでした。

とちぎRuby会議 09』の開催日(9月12日)を伝え、店をでる。

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*1:Testing:未知の問題を見つけるテスト

*2:参考書籍 インタフェースデザインの心理学 ―ウェブやアプリに新たな視点をもたらす100の指針 「089 ストレスを感じているときには間違いを犯しやすい」